こちらは日本トランスパーソナル心理学/精神医学会公式ホームページです。

 

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  • 学会長挨拶

学会長から皆様へ

 
 このたび石川勇一先生から会長を引き継いだ中川吉晴です。これまで長いあいだ学会を率いてくださった石川先生に、まず最初に感謝を申し上げます。
 私は初代会長の安藤治先生とのつながりで古くからの学会員であり、これまでにも事務局長、編集長、副会長などについてきましたが、今回、最後に会長をお引き受けすることになりました。私の専門は教育学であり、心理学でも精神医学でもありませんので、学会長として不十分な点を感じていますが、副会長の先生方をはじめ、理事会の先生方に支えていただきながら不足分を補っていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
 本学会は会員数が 100 名規模の比較的小さな学会です。もちろん学会員の増加は望まれるところですが、それとともに大切なのは、小規模であるがゆえに学会員がもっと発表しやすく、交流しやすくすることだと考えています。今後はその一助となるような企画を立ててまいりたいと思います。
 この間、スピリチュアリティやマインドフルネス瞑想の受容が進んだこともあり、隣接する諸学会もあらわれ、トランスパーソナル心理学と並び立つようになってきています。そのような状況にあって、トランスパーソナル心理学は超越的視点をふくんだ意識研究やスピリチュアリティ研究を行なうことに特徴があり、そうした方面からの学術活動は、これからも学問研究に大きく寄与するものと思います。
 また、コロナ禍にあってトランスパーソナル心理学の存在意義は増したのではないかと感じています。社会の構造的変化に応じて私たちのライフスタイルや価値観も根底から変化しています。この変動のなか一人ひとりが自分に向き合い、自分のあり方を問い直す機会がふえたのではないかと思います。トランスパーソナル心理学は、個人を超え、人格を超えた意識の広がりに関心を寄せるものですが、私たちの社会的基盤が流動的になっている今日、トランスパーソナルな観点から自分自身を改めてとらえ直すことが重要になっていると思います。今後本学会のなかで新しい人間観が探求され、発信されていくことを願っています。

2021 年 4 月 30 日
中川吉晴(同志社大学社会学部教授)

 
 

学会長から皆さまへ

 

 
 前期(2015~2018年)に引き続き、本学会の会長を再び拝命いたしました石川勇一です。トランスパーソナル運動の幕開けから半世紀が過ぎ、今日では当初の熱狂はもはや雲散し、わが国のいわゆるスピリチュアル・ブームもおおよそ終焉迎えた様相です。世俗社会ではAI、バイオテクノロジー、IOT、ブロックチェーン等の新しいテクノロジーの勃興による第4次産業革命に突入し、社会生活は加速度的に便利で効率的になっているようです。そのはずの一方では、テロ、紛争、大量破壊兵器や原発の拡散、経済格差の拡大、貧困、人権侵害、地球環境破壊等の重大問題が依然として惑星規模で山積しています。わが国では超高齢化社会を迎え、近代医療が進化したとはいえ、相変わらず私たち人間は生老病死の苦しみに直面し続けております。テクノロジーの進化は必ずしも人間の心をも進化させるものではなく、ある局面においては退化さえまねているかのようです。このような人間社会の現実をあるがままに直視するならば、未来を楽観することは容易ではなく、確かなことは諸行無常だけのように思われます。
 
 スピリチュアリティの研究や実践は、脚下の現実問題に直面しつつ、同時に世俗的事象を超えたところへの志向性を有するところにその特徴があります。そういう意味では、熱狂やブームが去った今日こそ、本質的で堅実な研究と実践をじっくり行える好機でもあります。霊性の道とは本来、熱狂やブームの対極にあり、あらゆる妄想や衝動から厭離し、事実を正しく認識し、理性的に行動を起こすことであると私は思っています。検証不可能な夢物語や神話に陶酔し、不都合な現実から目をそらし、なすべきことをなさないならば、それは偽りの霊性(false spirituality)の道にほかなりません。残念ながら、ブームや熱狂の中では、こうした偽りの霊性が跋扈していたような印象が拭えません。
 
 私たちは正しい霊性の道とは何かという模索を続けつつ、私たち自身の内側に細やかに目を向ける必要があります。個々人の心が成長し、不善な衝動に打ち勝ってこそ、惑星規模の諸問題も根本的な改善に向かうだろうからです。このように、内側と外側、個と集団のあらゆる領域に気づきと配慮を行き渡らせるような、地球市民的な大きな意識、善なる意識が今もっとも必要とされています。
 
 本学会は設立時より学術研究を重視して参りましたが、昨今の研究発表や学会誌の論文に触れますと、質の高い論考が増えていることに喜びを覚えます。また、一般会員の方と交流する際にも、それぞれが貴重な実践や探究をされているのを耳にすることができています。学術団体ですから、質の高い研究を重視するのはもちろんですが、それが絵に描いた餅にならないよう細心の注意が必要です。個々の実存と社会にとってもっとも重要なのは、慈悲に基づいた社会的実践、臨床的実践、そして修行の実践にほかなりません。
 
 トランスパーソナル心理学の独自性は「悟りの心理学」であると私は考えています。昨今、マインドフルネスブームが世界を席巻中ですが、いうまでもなくマインドフルネスとは本来、単なる健康や創造性開発のためのちっぽけな道具ではなく、悟りに必要な諸要素の一つです。今日では、特定の課題や技法に特化した学術研究や学会は既にたくさん立ち上がってきましたので、トランスパーソナル学こそ、視野をもっとも深く定めて、究極の悟り、解脱を真剣に探究するに相応しい器であると思います。究極の悟りを探究すればこそ、逆説的に、眼前の卑近な問題にも、対処療法だけではない、根源的な最善の対処ができるようになるのではないかと思います。会員の皆様の真摯な探究、研究、実践が一層盛んになりますことを心より願いますと同時に、本学会がそのお役に立てる場となることを願う次第です。
2018年3月20日
 
日本トランスパーソナル心理学/精神医学会会長
石川勇一

 

学会長から皆さまへ


 思いがけずも、日本トランスパーソナル心理学/精神医学会の第三代会長の任を担わせていただくことになりました石川勇一です。霊性 spirituality を真正面から最重要な主題として探求する本学会の存在意義は、設立当初も今日もこれからも、かわることなくきわめて重大なものであり続けると思っております。
 私の専門は臨床心理学であり、心理療法家です。心理学 psychology とはその語源からして本来、霊、魂、心(psyche)の学であるはずなのですが、我が国の大学や大学院では、現在でも霊や魂がはじめから排除されていることが大半であります。生きることや死ぬことの現実に向き合い、その本質を真剣に問うならば、霊性の問題はまぎれもない最重要課題でありますが、それが学問のマジョリティにおいては未だに避け続けられているという現実は、真剣な探究心を持った学徒への背信ではなかろうかと思う次第です。
 本学会は、そうした生死の本質を真摯に探究するすべての人々のために、質の高い学際的な学術研究を行い、その成果を発信し、だれもが霊性の学を堂々と学べる環境をつくることが重要な使命の一つであると思います。
 本学会が設立された1998年と比べると、今日では幸いにも霊性研究は各方面で行われるようになって参りました。近年、本学会と関心分野が重なる学・協会が次々と設立され、盛んに学術大会やシンポジウムが開催されております。今後は、隣接領域の学・協会などと交流も図りながら、相互に刺激を受けながら活性化と質的向上を目指すことも大切ではないかと思っております。
 個人的な見解ですが、トランスパーソナル心理学/精神医学とは、いわば「悟りの心理学」であると思っています。仏教の言葉で言えば、涅槃(ニッバーナ)へ至る道、すなわち解脱までの道のりを明らかにするという人間にとって究極の関心事を探求する学問です。そこにおいては、霊性のもたらす自己超越の可能性を探ると同時に、心の闇の部分(シャドー、煩悩)とどう向き合い、乗り越えていくのかという実際的な問題も含まれています。
 悟りの心理学の方法論は、すでに言い尽くされているとおり客観主義的・近代主義的な三人称的・自然科学的方法だけでは十分に明らかにすることはできません。当事者として関与する一人称的、二人称的研究、具体的には修行、臨床、諸々の日常実践などにもとづく現象学的に掘り下げるアプローチが不可欠です。つまり、「肉の目」だけではなく、「理知の目」、「黙想の目」による実践的な研究が必要とされており、統合的な視点が求められているのです。
 それは別の角度からいえば、悟りの心理学、超個の学は、自ら実践して体現しない限り、どれほど精密な論理を積み重ねたとしても、絵に描いた餅、月を差す指に過ぎないという限界があるということです。トランスパーソナル学を探求するということは、知的研究にとどまらず、大いなる全体的自己を日々生きようとすることでなくてはなりません。
 本学会の充実によって、多くの探求者に広く貢献できますことを心から祈る次第です。
2015年2月末日
 
日本トランスパーソナル心理学/精神医学会第三代会長
石川勇一

 
 


学会長から皆さまへ

 

2011年3月11日に起こった東日本大震災は、日本はもとより世界中の人々に大きな影響を与えつつあります。この震災と津波、そして福島原発の事故がもたらした未曾有の災害は、人間と自然の関わり方、科学技術と社会のあり方、そして何より私たち一人一人の生き方を根底から問い直すことを求めているように思われます。
 トランスパーソナルという言葉を初めて使用したW・ジェームズは、経験とは何かを考えていくなかで、西洋的な個人の概念を超えた経験の領域を表すためにこの言葉を用いました。同じ頃ドイツではフッサール、そして日本では西田幾多郎らが19世紀までの西洋近代文明のあり方とその基盤にある学問の再検討に取り組んでいました。1960年代にマズローらが始めたトランスパーソナル運動は、彼らの取り組みの延長上に生まれたものであり、必然的に、trans- culturalであり、trans-generationalな運動であるはずです。西洋近代が矮小化してしまった人間のあり方を問い直し、人類が世代や文化を越えたいのちのつながりのなかで存在するという実感のもとに未来を築いていくために、トランスパーソナル運動は計り知れない重要性をもっていると思います。
 日本トランスパーソナル心理学/精神医学会は、人類の未来への希望の一翼を担えるよう、グローバルなトランスパーソナル運動とつながりながら皆様と一緒に歩んでいきたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。
 
 
2011年11月
 
日本トランスパーソナル心理学/精神医学会第二代会長
村川治彦

第24回学術大会(同志社大学)2024年度